アフリカ在来知の生成とそのポジティブな実践に関する地域研究


在来知とは


 「在来知 (Local knowledge)」とは、人びとが自然・社会環境と日々関わるなかで形成される実践的、経験的な知を指します。このような「知」を実体として取り出してみせることはできません。本研究ではそれぞれの局面で立ち現れる知の存在様式(構造と機能、およびそれらの動態)に注目してその生成と実践の過程を扱っていきます。分析の主な対象は、人びとの生活における日常行為(発話や行動)とそれに 関わるモノになります。
 これまでアフリカをフィールドとする研究において、2つの分野で人びとの「知」が扱われてきました。開発学・応用人類学の領域では、介入される側の知識(例えば、農業慣行、環境保全、資源保護、社会集団の編成や規範に関する知識)をいかに開発の役に立てるかが問題にされてきた一方で、認識人類学の分野では、民族知識(Folk knowledge)が文化の体系を反映していることを前提とし、研究対象を動植物や色彩の分類体系のように再検証可能な「知識」に限定してきました。
 知に関してその実用的側面に意義を認めるか、認知的側面に普遍性を求めるかという2つの異なるアプローチは背反的なものではなく、むしろそれぞれの分野の学問的反省や展望のなかで相補的な視点として述べられてきた経緯があります。方法論的にも両者には多くの共通点が見られます。
 この研究がめざす「在来知」の理解は、まず開発学と認識人類学が対立的に呈示してきた視点を折衷すること、具体的には、認識人類学がふれなかった「認識体系と社会的な相互交渉の関係」と、開発学が扱わなかった「有用性と認知の関係」の両方を射程に入れています。そのためには双方がともに看過してきた知の動態的側面を、その生成と実践に注目し、変化の過程を多様な文脈に即してフィールドワークすることが求められます。
 本研究では、「アフリカ在来知 (African Local Knowledge [ALK])」を措定したうえで、アフリカにおける人びとの営みを以下の3つの領域に分類して研究をすすめていきます。


本研究で取り扱う3つの領域



(1) 生存のための生業の知【生業知ユニット】

 アフリカにおいて、在来知の力で生業をいかに持続的に維持していけるかという問題は現代アフリカにおける最も切実な課題です。
 この領域は以下の3つの研究班から構成されています。

 ◇在来農業班:エチオピア・コンソおよびアリ地域において農業に関する在来知の生成に関して科学知との対応、生業技術の知、食品加工利用技術の知についての調査
 ◇ ものつくり班:アリ地域などを対象に、土器や織物などにおけるものつくり技術の生成とポジティブな実践に関して、特に技術知の創造と学習過程に注目した調査
 ◇生物多様性在来保全班:アリおよびシダマ地域における農民参加型の作物品種の多様性保全について、在来知と庭畑の多様性の関連に注目した調査

(2) 交渉される関係の知【関係知ユニット】

 農業生産や環境保全などの生存の問題系を考えるにあたって、対象となる自然への一方的な働きかけに注目するだけでは不十分です。介入や交渉の繰り返される開発現象に直面したとき、社会的文脈から孤立した知識の記述は無効となります。そこで、人−人、人−モノ、モノ−モノの相互関係がいかに交渉されていくかという関心が生まれました。
 この領域は以下の4つの研究班から構成されています。

 ◇コミュニティー・コンサベーション班:エチオピア・アリおよびカファ地域において参加型景観保全、野生生物保全をめぐる国立公園と地域住民の関係、および森林資源の参加型保全についての調査
 ◇介入と交渉班:エチオピアにおける開発介入の実践知、フェアトレード、土地をめぐる紛争解決、難民への介入と交渉などの場面における実践知の調査
 ◇開発と在来組織班:エチオピアの開発や在来組織の活動におけるポジティブな実践に関する調査
 ◇音楽・宗教実践班:ゴンダール地方やアジスアベバにおける吟遊集団やハラール地域のイスラム伝統芸能組織の音楽実践に関する調査



(3) よりよく生きるための思惟の知【思惟知ユニット】

 上記の2つの知の生成と実践をうながす原動力となるものとして、ポジティブな実践を可能にするもうひとつの知を措定します。本質主義的であるという批判を恐れずにいえば、そこに「アフリカ的なるもの」が見いだせると考えています。そしてさらに今日のエチオピアは、幾多の政変や自然災害を経てもなお、人びとが生存と交渉を通じてよりよく生きる生の営みが続けられている場として、在来知の生成とポジティブな実践が「エチオピア的なるもの」として現前する可能性をもっていると考えます。  この領域は以下の研究班から構成されています。

 ◇ アフリカ哲学班:在来知の生成と実践をめぐる思惟知について、他の2ユニットの実例を総合討論しながらまとめます。アフリカ哲学と実践知の関係についても考察し、最終的には、エチオピアの発展にとっての在来知の意味と、ポジティブな実践の投企的役割についてまとめます。




本研究の構成と主たる調査地域
ユニットおよび各調査地域リスト
エチオピア・調査地域の位置



各ユニットの研究参加者
研究者リスト


研究会メンバーの研究業績








 

更新日: 2008年4月25日 | 作成者: 事務局